レガシーシステムを継続利用するメリット

なぜ使い続ける？あえて挙げるレガシーシステムの3つのメリット

1. 長年の運用実績による安定性

レガシーシステムの最大の強みは、長年にわたり止まらず動き続けてきた実績です。銀行の勘定系や製造業の生産管理システムなどは、数十年にわたって継続稼働し、業務を支えてきました。この「安定している」という事実が大きな安心感をもたらし、経営層や現場から「まだ変える必要はない」と判断されやすい背景になっています。

さらに、既存の業務フローや周辺システムがすでにレガシー基盤に合わせて構築されているため、日常業務を大きく変えずに継続できることも一つのメリットといえます。

2. 業務に特化した独自のカスタマイズ

レガシーシステムは、過去の業務要件に合わせて何度も改修を重ねてきました。その結果、他社のパッケージやSaaSでは再現しにくい細やかな機能が組み込まれており、現場からは「自社にぴったり合っている」と評価されることがあります。たとえば受発注処理における独自ルールや、在庫管理の特殊な計算方法などがそれにあたります。

このような独自性は、業務効率を支える武器である一方で、後述のように刷新時の大きな障壁にもなり得ます。

3. 移行コストや教育コストを当面回避できる

新システムへの刷新には数千万から数億円規模の投資が必要であり、短期的には負担が大きくなります。レガシーシステムをそのまま使い続けることで、当面の投資や従業員教育にかかる時間・費用を抑制できるのは確かにメリットです。

特に「現状の業務は回っている」という認識がある企業では、このコスト回避のメリットが刷新を後ろ倒しする大きな理由となっています。

しかし、そのメリットは未来の「技術的負債」になるかもしれません

安定性や独自性は短期的にはプラスですが、長期的には技術的負債に変わるリスクを含んでいます。具体的には「変更できない」「人材が不足する」「保守費が高騰する」といった問題へ直結します。

例えば独自カスタマイズは、他システムとの連携を阻害し、外部APIや最新サービスとの接続が困難になります。安定稼働も「古い技術を無理に維持するための高額保守費」を正当化する理由になり、結局は経営の俊敏性を奪います。

短期的な安心感を優先した結果、数年後に刷新コストが数倍に膨れ上がるケースも少なくありません。

メリットを帳消しにする、レガシーシステムが抱える深刻なリスク

• 旧言語（COBOL・RPGなど）を扱える技術者の高齢化による属人化
• サポート切れOS・DBを利用することによるセキュリティリスク
• 障害復旧に時間がかかり、業務停止コストが経営を直撃する
• 保守契約やデータセンター運用に年間数億円を費やすコストリスク
• 新規事業の立ち上げや外部サービス連携が進められない戦略リスク

メリットを維持しつつ課題を解決する方法

段階的モダナイゼーションで安定性を活かす

「全部を一度に刷新する」のではなく、周辺機能からクラウドやAPI化を進めることで、既存の安定性を維持しながら改善を重ねることが可能です。ストラングラーパターンや段階的リホストが代表的な方法です。

リプラットフォームとリファクタリングの組み合わせ

まずは現行アプリをクラウドへ移し（リホスト）、次にミドルウェアやフレームワークを更新（リプラットフォーム）。その後、属人化したコードを整理・再設計（リファクタリング）することで、現行メリットを活かしつつ将来の負債を抑制できます。

外部パートナーとの協業と人材育成

クラウド移行やモダナイゼーションに豊富な実績を持つ外部SIerと協業しながら、同時に社内で若手エンジニアを育成する取り組みも重要です。これにより独自機能を維持しつつ、持続可能な体制を構築できます。

まとめ

レガシーシステムには「安定性」「独自性」「短期的コスト回避」という確かなメリットがあります。しかし、その裏には「人材不足」「高額保守」「新規施策阻害」といった深刻なリスクが潜んでいます。重要なのはメリットを否定するのではなく、段階的なモダナイゼーションでメリットを活かしつつ課題を解消するアプローチです。

今の安心感を将来の負債にしないために、現状の棚卸しとロードマップ設計を早期に進めることが、持続的な競争力を確保する第一歩となります。